「水はどうして透明なの?」と生物学における4つのなぜ(水と光と目)
バズりに食いついてPVを稼ぎたい今日この頃です。
「水はどうして透明なの?」
霜田光一先生の「水はどうして透明なの?」という文章を読むと、レジェンド級の研究者は問題設定の出発点をここまで持って来るのか、と驚かれされる。
— Nakaji (@drboar) 2023年6月3日
ちなみに
「水分子は可視光を吸収する遷移がないから」
は答えではあるけど、そこで「問い」が止まらないのが面白い。
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物理学者の霜田光一先生が書かれた「水はどうして透明なの?」という文章に関するツイートが多くの人の注目を集めています。
個人的には人の目がそう進化したよりも、生物の起源が海から来たから海の中でものが見えるようそうなってるんだと思ってる
— ZX-6Rのフレンズ (@higeo_65) 2023年6月4日
空気中にも水分子って多いし、その形質がそのまま継承されたんだろうと
そして地球上でのスペクトル分布で高い強度を持つのが可視光領域であることもまた関連してると思ってる https://t.co/kIYSUy1xC2
「ヒトの眼の水晶体も硝子体も主成分は水であるから、ヒトは水を透過しない波長の光を見ることはできないはずである。だから水を透過する光が可視光線なのである。水が透明なのは偶然ではなくて、水が透明になる波長の光に感ずるようにヒトの眼の網膜ができたのではないだろうか?」
— Nakaji (@drboar) 2023年6月3日
(引用終わり)
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非常に面白い話題で色々な人が様々な観点から意見を述べています。ツイッターです。
水分子の吸収スペクトルと太陽光のスペクトルの関係
太陽光のピークと、大気の透過スペクトルとの兼ね合いもあるので、事態はもう少し複雑だと思う。水と大気の透過バンドが太陽光のピークに一致しているのは偶然の一致で、そのおかげで人類が生まれたのかもしれない。 https://t.co/AbWJW4Epp9
— しぶちん⏳🌏🧭🔨 (@pmagshib) 2023年6月3日
これは話が本末転倒だと思う。
— 田口善弘 (@Yh_Taguchi) 2023年6月3日
1)太陽光のスペクトルは5~600ナノメートルがピークhttps://t.co/QJpJ0Zfnz3
2)なので可視光は「そのあたり」を見られるように400nm~800nmをカバーhttps://t.co/ezfIfIMHib
3)その範囲で「透明」な媒体として結果的に「水」がえらばれた。 https://t.co/wC7TmNp9GO
実際に日光のスペクトルを見るとピークが可視光にあり非常に説得力があります。(実際太陽は白黄色く明るい)
しかし高温の太陽は黒体輻射しており、そのスペクトルはプランク分布に従い連続です。よって特定の帯域だけが選択的に強いということはありえないとも言えます。
地球大気に含まれる水蒸気により紫外線、赤外線が吸収されて可視光だけが残る影響もある*1かと思いましたが水によるスペクトルの吸収は一部に過ぎないような、長波長で大きいようななんとも言えません。
放送大学平成27年度第2学期面接授業 専門科目:自然と環境 科目コード2425700 先端科学技術の政策と事例 第5,6回:「光と色の科学技術」
いかがでしたか?
生物学における4つの「なぜ」とは
ここで視点を水から光の受け手である人間、生物に移します。なぜ生物がある形態や行動を取るかという問は生物学の主題みたいなものだと思うのですが生物が子孫を残し、進化するという特性からその問いの対象は複数あります
動物行動学者のニコ・ティンバーゲンという人がそれを列挙しています。
それはChatGPTによると以下のようなことらしいです。
生物学における4つの「なぜ」とは、以下のような質問です。
1. 進化の「なぜ」: なぜ生物は進化するのか?
生物学では、進化は生物の多様性と適応力の源であると考えられています。生物は環境の変化に応じて進化し、生存と繁殖の能力を向上させます。2. 形態の「なぜ」: なぜ生物は特定の形態を持つのか?
形態は生物の機能や環境適応に関連しています。生物の形態は、遺伝子の組み合わせと環境の相互作用によって決まります。形態の特徴は、生物の生存と繁殖に対する利益を提供するように進化してきました。3. 行動の「なぜ」: なぜ生物は特定の行動をするのか?
生物の行動は、生存と繁殖のための戦略として進化してきました。行動は、生物の環境に適応し、資源の取得、危険の回避、仲間との相互作用などの目的を果たすために発達しました。4. 病気の「なぜ」: なぜ生物は病気にかかるのか?
生物学では、病気は生物の正常な機能や状態の変化です。生物は外部からの病原体(ウイルス、細菌など)にさらされたり、内部の遺伝子の異常や細胞の機能の変化が起こったりすることで病気にかかります。病気は進化の観点からは不利益ですが、進化の過程で生物は免疫システムや病原体との相互作用を進化させることで、病気との闘いに適応してきました。これらの「なぜ」の質問は、生物学の研究や理解において重要な役割を果たしています。
個別の生物の機能ではなく生物全体に普遍的な性質になって話が広がってしまっていました...
正解?はWikipediaによると
- 1 機能(適応)
- 2 系統発生
- 3 メカニズム
- 4 個体発生
だそうでこの4つはマトリックスにより
通時的(歴史的経緯) | 共時的(現在の状態) | |
---|---|---|
個体的要因 | 個体発生 | メカニズム |
進化的要因 | 系統発生 | 機能(適応) |
と配置されます。またWikipediaにはまさに視覚の例が上げられています。以下では地球表面に存在する水の物理的特性と生物の視覚の関係を含めて(雑に)考察します。
眼の機能と環境
視覚は光で外界の様子を知る手法ですが光以外の物質や現象すなわち嗅覚、聴覚などで外界の様子を知ることもできるはずです。空気中または水中では上述のように可視光が豊富で物体に反射した光を利用ますが、地下や深海ではそうはいかずそこに生きる物には不要なので視覚は退化してなくなってしまいました。
蛇には赤外線を探知するピット器官というのがあります。これは哺乳類や鳥類などの恒温動物が地球に現れそれを捕食する生き方ができるようになってからの生じたものだと考えられます。ただ爬虫類は系統的には哺乳類、鳥類(恐竜)を含み蛇も現代に至るまで進化を続けています。原始的な蛇が恒温動物の登場に合わせて進化したというのはあまりにも素朴な見方です。ピット器官が生物史的にいつ生じたかは専門的で私にはまだわかりません。
眼の系統発生と生息環境
生物進化の系統上は眼は複数回生じています。すなわち脊椎動物と軟体動物のカメラのような目と節足動物の複眼、単眼です。原生動物には眼点というもっと単純な器官もあります。人間(脊椎動物)の眼が今ある形である必然性はなく、発光、電波の利用や位相、偏光の情報の利用など便利そうな機能は(生身では)獲得できませんでした。タコなど軟体動物の目やカメラと似た構造をしているので収斂進化といえるかもしれません。
電波を知覚できる生物はSFには登場しますが現実世界では近年になるまで利用されませんでした。遮蔽物を回り込むことができる、電離層で反射するなどの便利な性質はよく知られていますが電波を発信する必要があり、波長と同程度になるアンテナのサイズがcm,mm単位になり微生物の段階では利用できません。そのため人間などの大型の生物でも既存の眼の代わりに獲得されるのは難しかったと言えるかもしれません。しかしカメラ眼はレンズのサイズが複眼に比べ大きいので体のサイズを大きくしづらい節足動物では発達しなかったのでしょう。
水が透明であるような視覚を人間が獲得した理由を多くの人が「人間原理」という言葉で表現しています。しかし人間は突然太陽光のピークである可視光を見られる存在としてこの世に誕生したわけではなく、生存競争進化的系譜の果てに誕生し、祖先の形質を受け継いでいます。
あるいは創造説に従ったとしても神様がいい塩梅に作ってくれたはずなので問題は生じないはずです。
オゾン層によって紫外線が遮断されることはよく知られていますが、オゾン層は太古に光合成細菌が大量に酸素を放出したことで形成されました。これによって生物が陸上でも生息できるようになったという事実は生物による自分に有利な地球環境制御が行われるというガイア理論の変種と言えるかもしれませんが、地下や熱水噴出口などの人間からすると極限環境とも言えるような場所で暮らす生物量がかつてよりずっと多く見積もられている昨今では人間中心的な見方と言えるかもしれません。
眼のメカニズムと光学
進化史的には、網膜オプシンの方が先にあって、レンズ眼における水晶体や硝子体が網膜の感じる波長の光を妨げないような形で後から進化しているので、水晶体や硝子体が水を主成分とするからと言うより、オプシンを獲得した初期の生物が水中で暮らしていたから、ではないかと思われる https://t.co/cXAuuieH6k
— ultraviolet (@raurublock) 2023年6月4日
レンズではなく光受容体タンパク質に着目することもできます。同様の疑問が葉緑素にも言えますが進化の結果生物がこれらの丁度いい遷移をもった分子を見出したということでしょうか。
厚みを変えられるように透明な液体で作られるべきレンズが人体の多くの部分を占める水でできているというのは妥当なことだというのが多くの人が指摘していることです。しかし生物の器官の中には骨のように水以外の要素が多くの割合を占める器官もあります。マッコウクジラの頭や深海魚の浮袋のように油脂で満たされている器官もあります。レンズも卵の白身のように均一で透明なタンパク質で形成されてもよいはずです。
この説おもしろいんだけど、かつては方解石のレンズを使ってた生物もいたらしいからなぁ... https://t.co/9s2sJRy33u
— ISHIBASHIH (@1484h) 2023年6月4日
三葉虫の目は方解石(カルサイト)という鉱物でできていたはずだ、という従来の仮説に対し、「いや、個体の死亡後、化石化する過程で結晶化したにすぎない」という異論が提示されているようです。手がかりはガガンボ類の化石。まだまだ議論沸騰中の模様です…https://t.co/iCY3Q75K24
— 東京ズーネット[公式] (@TokyoZooNet_PR) 2019年9月1日
Fly fossils might challenge the idea of trilobites’ crystal eyes | Science News
三葉虫の複眼が方解石でできていたのではないかという説があり、論争しているらしいです。普通のカメラのレンズのようにガラスあるいは結晶でできていて偏光が近くできる眼、レンズを変形させるのではなく網膜までの距離を変えるあるいは焦点距離が違う複数のレンズを使い分けるという方法を使っても良かったはずです。逆に考えると既に発明されている液体で厚みを変えられるメガネを安価に便利に利用できるほどには文明は都合良くなってないです。
まとまらない
いまいちまとめられませんでしたが
- 水分子の吸収スペクトル
- 太陽光のスペクトル強度
- 生物、特に人間の光受容体、視覚の特性
のピークが奇跡的にか、必然的にか一致していることが面白いところで多くの人が興味を持ったのだと思います。ここでは「生物学における4つの「なぜ」とは」のフレームワークに基づいて視覚に関して別の可能性を挙げることでこの状況がどの程度必然的かを考えてみました。
なので、「(太陽光線のスペクトルピークに対して)なぜ水は透明なのか」ならば、割と妥当な科学的問いではないかと思いました(偶然でしょう)(あるいは放射対流平衡温度付近で液体であるような物質に対して透明な波長にスペクトルピークを持つ恒星の惑星にしか目の見える生命はいない、とかだったりして) https://t.co/chzaMdKXJ6
— お茶大気象学研究室(OchaMet) (@ochamet_tklab) 2023年6月4日
溶媒として優秀だったり多くの特異な性質を持つ水、水が液体でいられるハビタブルゾーンに地球があることと現在の太陽の温度が丁度いい関係にあるのが偶然ではなく何らかの必然だというアイデアはSFのネタにできそうです。
その他
- 海が青いのは水の吸収スペクトルによるものだが空が青いのは空気中の塵によるレイリー散乱によります。
- 金属は一般に自由電子動くことで電磁波を吸収するため透明にはなりえないはずですが、太陽電池や液晶ディスプレーではITO(酸化インジウムスズ)という素材でできた透明電極というのが不可欠で広く使われています。
電子密度は低く、プラズマ周波数も低いため可視光を通すのですが、ひとつひとつの電子が非常に動き易くできているので、信号用の電流を流せるのです。
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